COVID-19ウイルス感染は、ヒト細胞表面のスパイク状の突起蛋白にウイルスが結合し、ヒト細胞内に侵入することで起きる。世界的に広がったこの感染は、オリンピック開催中の日本でも大爆発し、死者も1万6千に迫っている。呼吸不全になれば、人工呼吸でステロイド投与する以外、治療法はない。唯一の防御策はワクチン接種だ。
通常のワクチンは、弱毒もしくは無毒化した細菌やウイルスで作成する。だが、現在接種しているワクチンは、ヒト細胞表面のスパイク蛋白の一部を遺伝子組み換え技術で合成。メッセンジャーRNA(mRNA)に置き換えて作る。
そのため接種すると、自分の遺伝子に異常が起きて自己免疫疾患になるという誤った情報が拡散。若者らにワクチン接種しない人がいる。防疫は国家の義務だ。ワクチンで天然痘やポリオ、結核が駆逐された。ワクチン未接種者が多いと集団免疫は成立せず、未接種の中で感染が蔓延持続する。アメリカやイギリスの感染再燃を見れば、理解できよう。遺伝子組み換え技術は食糧生産などで普遍的な技術である。RNAは細胞の核内に入ることはなく、核内の遺伝子、DNAに影響することはない。合成mRNAを体内に導入する研究は、がん治療目的で30年前から世界中で行われていた。
実用化は困難だった。だが、mRNAの不安定さは脂質膜の被包と低温保存で解決された。炎症も大きな問題だった。細胞内tRNA投与では炎症がないことに着目し、mRNAの塩基の一部をtRNAシュードリジンに変えることで解決した。研究は2000年代のSARSや新型インフルエンザのパンデミックを機に、ウイルスワクチン研究にシフトした。
そんな中、昨年1月に武漢の白博士が中国政府の意向に反してCOVID-19の遺伝子情報を公開した。それを機に、mRNAワクチン研究が花開き、画期的なmRNAワクチンが短期間に実用化される奇跡が起きたのだ。