私たちが暮らす浦安を歩いてみよう。小さな発見があるかもしれない。
今回は浦安を舞台にした山本周五郎の傑作「青べか物語」。ゆかりの地を巡った。
◇昭和初期の浦安
青年作家だった山本周五郎は昭和初期、浦安で暮らした。その体験を基に「青べか物語」を執筆する。青べかとは青いペンキを塗ったべか舟のことである。
境川の東水門からスタートした。かつて、この先には遠浅の海が広がっていた。周五郎が芳じいさんと出会ったのがこの辺りだ。
境川に沿って歩いて行く。空は青い。快適だ。
境橋を渡る。フラワー通りに出る。寄席「浦安亭」が営業していたそうだが、今は面影もない。銭湯も姿を消した。旧大塚家住宅(市文化財)が残る。漁業と農業を営んでいた。家の中に入る。神棚と床の間が立派だ。
昼時。そば処「天哲」へ。創業100年を超える老舗。今も家族で店を支える。周五郎は原稿料が入ると、この店で天ぷらを注文、酒を飲んだという。私は鴨せいろを注文。うまい。
◇蒸気河岸跡
再び、境川へ。新橋の近くには、昔、見事な大松が枝を伸ばしていた。ここで周五郎はあの芳じいさんに「青べか」を売りつけられる。
旧江戸川に出た。河岸には蒸気船の発着場があった。周五郎はこの界隈で暮らし、「蒸気河岸の先生」と呼ばれていたという。
西水門の近くには船宿「吉野屋」が健在だ。作品には船宿「千本」として登場する。なぜ「千本」なのか。そのこころは吉野千本桜・・・。
周五郎は吉野屋の息子、長太郎(小学生)と親しくなる。浅草の映画館に連れていったこともある。戦後、浦安を訪れた周五郎は長太郎と再会する。情感こもる名場面だ。
◇清瀧弁財天
旧江戸川沿いを下流に向かって歩いて行く。風が強く吹く。住宅地の一角に清瀧弁財天が建つ。
作品では一時期、多くの参詣者で賑わっていたと紹介されている。
今、境内は静かだ。池には鯉が泳ぎ、亀が浮かぶ。若い女性がひとり。手を合わせている。
(塩塚 保)