Dr.竜の「診察ノー卜」第46話: 80歳以上の高齢者にも 適切ながん医療を

 平成22年に示された日本人の平均寿命は男性79.64歳、女性86.39歳。80歳の平均余命は男性8.57歳、女性は11.59歳である。高齢者のがん患者は増加の一途だ。国立がん研究センターによるがんと診断された人の年齢別頻度は、80歳以上で25.6%にも達している。こうした高齢者にがん治療は必要ないとの意見が散見される。

竜 崇正 先生

竜 崇正 りゅう・むねまさ
浦安ふじみクリニック院長
=浦安市富士見2-18-9=

 週刊朝日の「80歳過ぎがん患者に、がん治療や無理な延命は必要ない」という特集記事。「点滴や胃瘻(いろう)で80歳過ぎの寝たきりになった人を無理に生かすのは無駄だ」という意見と、近藤誠氏の「がんは治療しないほうが痛みが少なく、治療しても余命に差がない」という意見を紹介。
 週刊現代でも、80歳以上のがん患者で、手術をして具合が悪くなった事例を紹介、むやみに手術をすべきでないとしている。
 AERA は高齢者の手術の是非を検証し、日本一の肝臓がん手術例の日大外科の高山忠利教授の「手術を年齢を理由に断ることはない」との意見を紹介している。
 科学的根拠を示す論文が少ないので、手術を受ける人の価値観を重視すべきとする「高齢者のがん医療を考える会」を組織した福岡大学腫瘍内科の田村和夫医師の意見を紹介している。
 当然ながら手術にはリスクがあり、手術後の経過が悪い患者は何歳であってもある。しかし日本の手術レベルは高く、日本外科学会の臨床データでは、胃がんの手術死亡率は0・3%程度と非常に低い。80歳以上であっても、患者には適切な医療を受ける権利がある。
 高齢者の手術の意義を検証した科学論文は少ない。私は千葉県立佐原病院長時代に、同院で手術した80歳以上のがん患者の治療意義を検証した。地方の中核病院なのでほとんどすべての患者さんの生活環境や予後を明らかにしての結果である。
5年生存率は60%を超え、若年者と差がなかった。多変量解析による有意の予後因子は、自分で身の回りのことができること、治癒切除、本人の生きる意志、患者を支える複数の家族の存在、の4項目であった。
 この結果は2004年のAm J Surgery に掲載され、数少ない科学的検証結果である。大事なのは家族と本人の意志であり、それを支える安全確実な手術をする医療者の情熱である。高齢を理由に治る医療を諦める必要はまったくないのである。


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